1. 導入:
退職届に書かれた「嘘」を見抜いていますか?
「一身上の都合により……」 「家庭の事情で、どうしても地元に戻らなければならず……」
退職を願い出る社員が提出する書類には、耳ざわりの良い「嘘」が並びます。経営者の前で「あなたのマネジメントに嫌気がさしました」と本音を語る社員は稀です。しかし、そこにあるのは角を立てずに去りたいという配慮ではなく、その組織に対して「もはや本音を言っても無駄だ」という絶望が隠されていることに気づかなければなりません。
事実、社員が退職する本音の理由の多くは、上司(リーダー)との人間関係に嫌気がさしたことです。せっかくコストをかけて採用した優秀な人材が、本音を隠して去っていく。そのドミノの最初の一枚は、リーダーとの関係不全によってすでに倒れているのです。
2. 「退職者続出」の予兆:
現場の「対立」を加速させるリーダーの不備
組織が崩壊する前には、必ず特有の予兆が現れます。それはリーダー自身の振る舞いが、現場の対立を火に油を注ぐ形で加速させているケースです。
リーダーの3つの不備
① 感情の垂れ流しとレジリエンスの低さ
業績悪化などの逆境に直面すると機嫌が悪くなり、部下に当たり散らすリーダーです。負の感情は「感情のWi-Fi」のようにチーム内に充満し、離職率を急上昇させます。
店舗責任者が売上の落ち込みを部下の「気合不足」のせいにし、毎日朝礼で激しい叱責を繰り返しました。リーダー自身の焦りが「言葉の鉄拳制裁」となり、職場から笑顔が消滅。耐えかねた店長候補たちが「この人の下では心が持たない」と相次いで退職しました。
② 「独善的」な押し付け
部下を十把一絡げに扱い、個性を無視して「自分だったらこうされたい」という主観を押し付けるタイプです。
「飲みニケーション」を絶対と信じる独善的リーダーが、論理的で効率を重視する若手社員に対しても強引に付き合いを強要しました。部下の個性に合わせた関わりができないため、若手は「自分を理解しようとしない上司」と断定。結果、期待されていた若手ホープが前触れなく辞表を出し、技術承継が断絶しました。
③ 自由放任という名の「無関心」
ハラスメントや反発を恐れて必要な指導を避け、現場の対立を見て見ぬふりをするパターンです。
チーム内の技術方針を巡る対立を知りながら、リーダーは「現場で解決しろ」と自由放任を貫きました。しかし、これは実質的な放置であり、誠実に調整を試みていたエース社員が「リーダーが責任を放棄している」と失望。最終的にエース社員が対立相手を連れて他社へ流出するという最悪の結果を招きました。
3. なぜリーダーは「負の成功体験」から抜け出せないのか
深刻なのは、離職率の高いリーダーほど、自分が正しいと思い込んでいる「中毒症状」に陥っていることです。 人の動機付けには「痛みを避けようとする(ノルアドレナリン型)」と「快楽を得ようとする(ドーパミン型)」の2種類があります。 恐怖や叱責による「ノルアドレナリン型」のマネジメントは即効性があり、一時的に人を変化させる成功体験を与えます。この「劇薬」で味を占めたリーダーは、部下が言うことを聞く瞬時の成果に中毒し、長期的な副作用(無気力、離職、メンタルダウン)から目を逸らしてしまうのです。ここでも「感情マネジメント」の欠如がドミノを倒す引き金となっています。
ノルアドレナリン型 vs ドーパミン型マネジメント
特徴:
恐怖や叱責で動かす「劇薬」型。即効性があり、一時的に成果が出る。
長期的な副作用:
- 無気力化
- 離職率の上昇
- メンタルダウン
- 挑戦意欲の喪失
特徴:
やる気を引き出す心理学に基づいた動機付け。時間はかかるが持続的。
長期的な効果:
- 自発的行動の増加
- 定着率の向上
- 心理的安全性
- 継続的な成長
4. 解決策:
対立を成長に変える「フィードバックの技術」と「仕組み」
倒れ始めたドミノを止めるには、根性論ではなく「技術」と「仕組み」の導入が必要です。
第三者機関を通じた「組織の本音」の可視化
第一歩は、経営者が現場の「真の温度感」を知ることです。社内調査では絶対に出てこない「本当の火種」を抽出します。
業績好調にもかかわらず離職が止まらなかったD社。第三者機関によるアンケートを実施したところ、全社員の8割が「リーダーの感情的な言動」を最大のストレスとして挙げていることが判明。経営者が現場の「絶望」を客観的数値で直視したことが、再建の出発点となりました。
やり方を教える「叱り方の技術」
今の時代のリーダーに必要なのは、感情をぶつけるのではなく、理論に基づいた「正しい叱り方・ほめ方」という技術を学ぶことです。
「叱ると辞める」と悩んでいた課長が、理論に基づいたフィードバック技術を習得。感情を排し、事実に基づいた改善案を部下と一緒に考えるスタイルに変えたことで、部下は「攻撃されている」と感じなくなり、離職が止まっただけでなく、自発的な行動が増加しました。
個性に合わせたマネジメントと「自分取説」の共有
各人の個性に合わせた関わり方を習得させ、それをシステムとして補完します。
チーム内で「自分取説」を可視化。例えば「私は論理的に詰められるとフリーズするので、まずは結論から話してほしい」といった特性を共有しました。これにより、リーダーの「良かれと思って」の押し付けが消え、無用な対立が成長のエネルギーへと反転しました。
5. 現場の火種を成長に変える具体的解決策
現場の対立を放置すれば、それは会社の死活問題に直結します。
組織診断(やる気決算書)
第三者による客観的な診断で、目に見えない「人間関係の歪み」を数値化し、確実な打ち手を導き出します。
研修の統合(ほめ方・叱り方 × モチベーションマネジメント)
リーダーたちに、恐怖ではなく「やる気を引き出す心理学」を基礎から学ばせていきます。
結び:ドミノを止めるのは、今、この瞬間
10年後の労働力不足が確実視される中、リーダー一人の不備で貴重な人材を流出させることは、企業の将来性を自ら摘み取ることと同じです。 淀んだ空気を一変させ、対立を成長のエネルギーへと反転させる。その再建のプロセスを、私たちは最強のパートナーとして支え続けます。