1. 導入:
なぜ、ある日突然「優秀な人材」から辞めていくのか
「売上は悪くない。給与水準も業界平均以上だ。それなのに、なぜ……」
経営者がそう首をかしげる裏で、組織の崩壊は音もなく始まっています。昨日まで現場を支えていたエース級の社員が、示し合わせたかのように次々と辞表を提出する。残されたのは、活気を失った職場と、どこか冷めた空気を纏った社員たち。
こうした離職に際して、彼らは「家庭の事情」や「キャリアアップ」といった角の立たない理由を並べるでしょう。
しかし、それを真に受けてはいけません。組織が崩壊へと向かうドミノの最初の一枚は、すでにリーダー自身の「内側」で既に倒れているのです。
2. 組織崩壊の5つのドミノ(構造的メカニズム)
組織の崩壊は突発的な事故ではなく、論理的な連鎖、つまり「ドミノ倒し」によって引き起こされます。
そしてその引き金を引くのが、リーダーの負の感情が組織全体に伝播する「感情のWi-Fi」現象です。
崩壊への連鎖:5つのドミノ
第1のドミノ:リーダーの感情のマネジメントの欠如
すべての発端は、リーダー自身の余裕がなくなることです。多忙や重圧により、無意識にため息をつく、あるいは部下に対してピリついた態度を取る。
リーダーが発する負の感情は、Wi-Fiのように目に見えない電波となって組織全体に伝播し、組織の空気を一瞬で凍りつかせます。これが「感情のWi-Fi」です。
第2のドミノ:心理的安全性の消滅
「感情のWi-Fi」で負の感情が蔓延すると、部下は「余計なことを言って火の粉を浴びたくない」と口を閉ざし始めます。
職場にピリピリとした緊張感が走り、淀んだ暗い空気が蔓延。笑顔と元気が消え、活発な議論が失われた組織では、ミスが隠され、やがて業績にも明確な悪影響が出始めます。
第3のドミノ:情報の不透明化と隠蔽
「これを言ったら怒られる」「今は機嫌が悪いから後にしよう」。
そうして現場の不都合な事実がリーダーに届かなくなります。リーダーの耳には「心地よい報告」だけが入り、現場で起きている致命的な歪みは、取り返しのつかない規模まで膨れ上がります。
第4のドミノ:優秀層の絶望と見切り
能力が高く、市場価値の高い「優秀層」ほど、「感情のWi-Fi」で汚染された組織の状況を冷静に観察しています。
「このリーダーの下では、未来を創る挑戦よりも保身が優先される」と見切りをつけた彼らは、沈みゆく船から真っ先に脱出します。
第5のドミノ:組織の空洞化
エースが去った後、組織に残るのは「動かない(動けない)中間層」と、組織への不満を募らせる層だけです。
ここまでドミノが倒れると、もはや単なる採用や給与アップでは修復不能な崩壊へと至ります。
あるIT企業では、新事業のプレッシャーから社長が常にイライラした状態が続いていました。会議では些細なミスを糾弾し、現場の笑顔は消滅。エース級のエンジニアは「保身に走る空気にクリエイティビティは宿らない」と絶望し、静かに競合他社へ移籍しました。組織の「活気」というインフラが死んだ瞬間でした。
3.
すべての根源:リーダーの「感情」が組織のインフラである
感情知能(EQ)の視点で見れば、リーダーの感情は単なる個人の持ち物ではありません。それはオフィス内に張り巡らされた「感情のWi-Fi」のように、全社員に伝播する「組織のインフラ」です。
リーダーが良い状態であれば、組織にはポジティブなエネルギーが流れます。しかし、リーダーが「成功体験の毒」に侵されていると、事態は悪化します。
「昔はこれくらいの厳しさで皆ついてきた」「俺が若い頃はもっと……」こうした過去の強引なマネジメント手法が、現代の優秀層には致命的な「毒」となり、彼らの心を折り、組織を内側から腐食させていくのです。
過去の成功に固執する2代目社長は、若手の斬新な提案を「現実が見えていない」と感情的に却下し続けました。社長の言葉の刃に晒され続けた現場からは、改善意欲も笑顔も消え失せ、最終的には製品の品質低下という形で業績を直撃しました。
4. 解決策:ドミノを止める「リーダーのレジリエンス」
一度倒れ始めたドミノを止めるには、リーダー自身が「変化」の起点になるしかありません。そこで求められるのが「戦略的レジリエンス」です。 まずは「自己客観視」です。自分の感情の揺れが、どれほど残酷に組織の空気を汚染しているか。鏡を見るように自分の内面を直視しなければなりません。 次に「感情の再定義」です。焦りや怒りを抑圧するのではなく、「なぜ自分は今、焦っているのか?」と問い直し、それを組織を健全に動かすエネルギーへとリフレーミングする技術が必要です。
あるサービス業の経営者は、自身の「焦り」が攻撃的な言動に変わっていたことを認めました。内面的なレジリエンスを高めるトレーニングを経て、部下との対話の質を変えたことで、職場には再び笑顔と活気が戻りました。結果として、万年不足していた人材が定着し、離職率は激減しました。
5. エグゼクティブコーチングによる「解毒」と再建
社長やリーダーは孤独です。社内の人間には、自分の弱みや「成功体験の毒」に侵されている自覚を語ることはできません。 だからこそ、プロの第三者によるエグゼクティブコーチングが不可欠です。コーチは、経営者にとっての「鏡」となります。
「組織の淀んだ空気は、自分自身の投影だった」。そう気づいた建設会社の社長は、コーチングを通じて自らの感情マネジメントを徹底しました。社長が変容したことで、ドミノは「崩壊」から「再建」へと逆方向に倒れ始めました。笑顔の戻った現場からは新しいアイデアが次々と生まれ、同社は今、第二創業期とも言える爆発的な成長を遂げています。
結び:ドミノを止めるのは、今、この瞬間
組織の崩壊は、リーダーが自身の感情を放置した瞬間から始まります。しかし、逆に言えば、リーダーが「戦略的レジリエンス」を持って自分を律し始めたとき、組織の再建もまた、その瞬間から始まります。 淀んだ空気を一変させ、優秀層が「ここで働き続けたい」と思える強い組織を取り戻す。その決断を、私たちは最強のパートナーとして支え続けます。