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ベンチャーマネジメント 経営戦略シリーズ

経営計画書が毎年3ヶ月で形骸化する
——「忙しい」を言い訳にさせない社長の執念と仕組み

その計画書に、あなたの「殺気」はあるか

4月。新年度のキックオフ。

立派な表紙のついた経営計画書が、全社員の机に配られる。

「今期の売上目標は前年比110%。顧客満足度の向上と、社員一丸となった組織力の強化を推進します」

——どこかで見た言葉だ。去年も、その前の年も、似たような文章があった気がする。

あなたはその計画書を作るとき、夜中に唸りながら書いたか。「これをやらないと、うちの会社は3年後に終わる」という恐怖で手が震えたか。「この事業を成功させることが、俺がこの世に生まれてきた理由だ」という確信に突き動かされていたか。

「できれば達成させたい」——その温度感で語られた計画書は、現場に着いた瞬間から死んでいる。
形骸化する計画書
  • きれいな言葉の羅列
  • 数字だけの目標
  • 期初のみ参照
  • 社長が「できれば」で語る
実行される計画書
  • 社長の恐怖と渇望が宿る
  • 私情が詰まった目標
  • 毎月の会議で参照
  • 社長が「絶対に」で語る

「できれば」で終わる理由:それはあなたの「本音」ではないから

経営計画書が形骸化する理由を、多くのコンサルは「目標設定の甘さ」「PDCAの欠如」「幹部のコミット不足」で説明する。

間違ってはいない。しかし、根っこではない。

根っこは、社長自身のOSにバグがある。

「社長らしい立派な目標を掲げなければならない」「世間体のいい計画書を作らなければならない」——その呪縛に縛られて、あなたは自分の内側から湧き出る本音に蓋をしていないか。

本音とは、たとえばこういうものだ。

「このままだと3年後、資金繰りが詰まる。絶対にそうはさせない」という恐怖

「うちの職人の技術は、業界で誰も正当に評価していない。それをぶっ壊したい」という執念

「あの取引先との関係を絶対に守る。それだけは譲れない」という義理と覚悟

きれいではない。「社長らしくない」かもしれない。しかしそれが、あなたの「本音」だ。

社員は敏感だ。

社長が「できれば達成させたい」程度の温度感で語る目標を、現場は即座に見抜く。そして正論で押し返す——「今期は採用が遅れて人手が足りていません」「クレーム対応で手が回りません」「みんな精一杯やっています」。

「忙しい」は、嘘ではない。しかしそれが通用するのは、社長の計画に殺気がないからだ。

断言する。社長が「やらなければ会社が傾く」という危機感も、「これこそが自分の人生だ」という渇望も持っていない計画は、社員にとってただの作業リストでしかない。

5名〜30名規模の中小企業において、倒産の危機や組織崩壊は常に隣り合わせだ。その恐怖をなかったことにして作られた「きれいな計画書」に、社員を動かす力はない。

執念の再定義:計画を「社長のわがまま」から始める

ここで発想を逆転させる。

経営計画書を「数字の羅列(Layer 1)」から、社長の「生き様(Layer 2)」へ引き上げよ。

LAYER 2 — 生き様の層
社長の生き様
  • 社長の恐怖・渇望・義理・覚悟
  • 「絶対にやりたい私情」
  • 組織を動かすエネルギー源
Layer 2(上位)が Layer 1 を統括する ↑ 「引き上げよ」= Layer 1 の計画を Layer 2 の領域へ昇華させること
LAYER 1 — 数字の層
数字の羅列
  • 売上目標・KPI・施策リスト
  • Layer 2 によって初めて意味を持つ

Layer 1の計画書は「何をするか」を定義する。しかしそれだけでは動かない。

Layer 2の問いは、こうだ。

「この計画の中心にあるのは、あなたの『私情』か?」

「これを達成できたら、俺は最高に嬉しい」と心から思えるか。「達成できなかったら、俺は本気で悔しい」と思えるか。

きれいごとは要らない。コンサルが作ったような整合性も要らない。

社長の「絶対にやりたい」というわがまま——それこそが、計画を3ヶ月で終わらせない唯一のエンジンだ。

そしてその「私情」を、社員が無視できない「動かしようのない仕組み」へと変換する。それが経営者の仕事だ。

(仕組み化の発想については「管理職の役割は『精神論』から『仕組み化』へ」も参照されたい)

「忙しい」を封じ込める、執念の仕組み化

社長の執念を、感情のままで終わらせてはいけない。仕組みに変換して初めて、組織を動かす力になる。

STEP 1

「岩」を先に置け

壺に岩(最重要事項)と砂(日常の雑務)を入れるとき、砂を先に入れると岩が入らない。岩を先に入れれば、砂は隙間に収まる。

砂を先に詰める(×)
砂(日常業務・クレーム・採用)
岩(最重要事項)が入らない
岩が溢れ出る
→ 計画は死ぬ
岩を先に置く(○)
岩(最重要事項)を先に置く
砂(日常業務)は隙間に収まる
→ 計画は生きる
「忙しい」とは、砂を先に入れてしまった状態のことだ

社長が「絶対にやる」と決めた最重要事項を、月のスケジュールの最初に叩き込め。会議でも、訪問でも、意思決定の場でも——岩を動かさない。

「忙しくてできませんでした」が通用するのは、砂を先に詰め込んでいるからだ。

(聖域を守る仕組み設計については「意図的な余白を作る仕組み設計」も参照されたい)

STEP 2

逃げ場を構造で遮断する

「忙しい」を封じるのは、怒号でも詰めでもない。

「なぜできなかったのか」の構造解剖だ。

未達が出たとき、社長がやるべき問いはこれだ。

「その忙しさは、誰かに任せられなかったのか」
「なぜその業務がその人に集中しているのか」
「それは計画策定時に読めていた問題か、読めていなかった問題か」

怒るのではなく、構造を解剖する。解剖され続けると、「忙しい」は言い訳として機能しなくなる。なぜなら、忙しさの原因が自分たちの設計の問題として突き付けられるからだ。

(構造解剖の組織的な実践については「『勝てる構造』の全貌——社長を現場から「追放」する4つの前提」も参照されたい)

STEP 3

社長自身が「逃げない」を見せる

最後にして最重要。

社員は見ている。社長が最初に岩を動かした瞬間を。社長が「これだけは絶対に死守する」と言ったことを、自ら後回しにした瞬間を。

計画の形骸化は、社長が最初に計画を破ったときに始まる。

社長自身の行動が、計画書の「本気度」の証明書だ。

結論:計画書は、社長の「覚悟」を転写した鏡である

3ヶ月で死ぬ経営計画書には、共通点がある。

社長が、どこかに「逃げ道」を作っていた。

「まあ、できればいいな」という心の余白。「コンサルが言うから入れた」という他人事の目標。「社員が頑張ってくれれば届くはずだ」という他責の構造。

100点の計画よりも、社長の「私情」が詰まった、泥臭くやり抜くしかない計画のほうが、組織を動かす。

計画書は、社長の覚悟を転写した鏡だ。

その鏡に映っているのは、殺気のある社長か。それとも世間体に縛られた、「社長らしい」社長か。

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