1. 導入:なぜ10名を超えると、あんなに結束していた組織がバラバラになるのか
創業以来、社長の背中を見て阿吽の呼吸で動いてきたチーム。しかし、社員が10名を超えたあたりから、急に歯車が狂い始めます。
これまでは社長が一人ひとりとじっくり話し、気持ちを汲み取ることができました。しかし10名を超えると物理的に目が届かなくなり、一人ひとりの本音や変化に気づけなくなります。その結果、「メッセージが伝わらない」「現場の不満が見えない」という断絶が生まれ、組織はバラバラになり始めます。これは社長の能力不足ではなく、「人間が一対一で密に信頼関係を維持できる人数の限界」なのです。この壁を越えて成長するには、社長の「目」の代わりとなる管理者を置き、組織という「仕組み」で動かす設計図、すなわち「組織図」が不可欠なのです。
2. 中小経営者が陥る「組織図」の大きな勘違いと機能不全
ここで多くの経営者が、「とにかく誰かを管理者に」と焦って失敗します。中堅企業以上の組織図は、すでに専門家が揃っていることを前提とした「機能図」です。これをそのまま真似して、無理に今のメンバーを役職に当てはめると、組織は深刻な機能不全に陥ります。
社員10名のA社。社長は慌てて古株の営業マンを「営業部長」に任命しましたが、彼にはマネジメント経験がなく、威圧的な態度で不満を抑え込もうとしました。結果、離職者が続出し、社長はさらにその火消しに追われることになったのです。
3. 実務の鉄則:名前より先に「想定組織図」を描き、空席を認める
中小企業の組織図は、現状を示すものではなく、未来の「人事計画」そのものでなければなりません。
B社の社長は、理想の組織図(想定組織図)を描き、適任者がいないポストにはあえて自分の名前「社長」と書き込みました。社員には「今は私が兼務するが、3年後には君たちがこの椅子に座るリーダーになってほしい」と宣言。こうして「空席」を可視化することで、社長は採用・育成の「人事計画」に集中できるようになり、社員も目指すべき役割が明確になりました。
4. 【プロの目利き】抜擢か、空席か。迷った時の4つの基準
判断を誤らないためのポイントは、【実績・人格・年齢・知能】です。
- 実績: 現在の業務で確かな成果を出しているか。
- 人格(UPシステムの活用): UPシステムを用い、そのポストに相応しい資質(性格)を備えているかを見極めます。緻密な管理が必要なポストに、勢い重視のタイプを置いていないか。適性を見極めずに役職を与えると、本人が苦しみ、組織を壊します。
- 年齢・知能: 将来の伸び代や、複雑な状況を整理し判断できる能力があるか。
5. 職務記述書が、社長と部下の「境界線」を守る
組織図という「図」を動かすために、各ポストの役割を言葉にした「職務記述書(ジョブディスクリプション)」をセットで用意してください。これは、社長にとっては「つい口を出してしまう」のを防ぐブレーキになり、任された側にとっては「ここまでは自分の責任だ」という自信と根拠を持って振る舞える盾になります。
6. 結び:組織図は、社長を「現場」から解放し、「未来」へ向かわせる設計図
10名の壁は、社長が「現場のリーダー」から「真の経営者」へ脱皮するための試練です。組織図を「人事計画」だと捉え直してください。空白のポストを一つずつ信頼できるリーダーに引き継いでいく。その設計図があるからこそ、会社は社長の目を超えた大きな成長へと踏み出せるのです。